遺言書保管制度と公正証書遺言の比較
2020年7月10日から開始した自筆証書遺言書の保管制度と、従来からある公
正証書遺言について、比較をしてみました。
費用は?
公正証書遺言を作成する際に公証役場に支払う手数料は、財産の金額や諸条件に
よって変動しますが、仮に財産の価額が3,000〜5,000万円であった場
合には、概ね5〜8万円ほどとなります。(諸条件により異なるのであくまでも
参考です。)
それ以外にも、証人2名の手配に加え、専門家に遺言書作成サポートを依頼した
場合には、その分の報酬もかかってきます。
自筆証書遺言書保管制度では遺言書を保管する法務局に手数料を支払うことにな
りますが、金額は3,900円で、収入印紙で納付します。(専門家に遺言書作
成サポートを依頼した場合には、その報酬も別途必要となります。)
なお、公正証書遺言も自筆証書遺言書保管制度も、一度費用を支払えばその後に
保管年数に応じた保管料などはかかりません。
安全性は?
公正証書遺言の原本は公証役場で保管されます。たいして、保管制度を利用した
自筆証書遺言は、法務局(遺言書保管所)で保管されます。
どちらも、紛失や第三者による偽造・変造・破棄・隠匿のリスクを避けることが
できます。
保存期間は?
公正証書遺言の原本は公証役場で保管され、その保管期間は原則として20年間
ですが、実際には半永久的に保管されるのが実務上の扱いとなっているようです。
保管制度を利用した自筆証書遺言は、法務局(遺言書保管所)で原本を保管する
と同時にコンピューターデータ(遺言書の画像データ)としても保存されます。
一般的な相続の場合は遺言者の死後50年間は遺言書の原本が保管され、コンピ
ューターデータは150年間保管されます。
家庭裁判所の検認は?
原則として、公正証書遺言以外の遺言書の保管者は、相続の開始を知ったのち遅
滞なく家庭裁判所に遺言書を提出してその検認を請求する必要があります。
保管制度を利用した自筆証書遺言については、法務局(遺言書保管所)が遺言書
を保管しているため、検認手続きは不要となります。
※検認手続きをする意味は、遺言の有効無効を判断することではなく、遺言書の
存在を裁判所で明らかにすることによって、以後の偽造や変造を防止すること
にあります。
手間は?
公正証書遺言は公証役場で公証人に作成してもらいますが、事前に用意する必要
がある書類や打合せなどの他、証人2名の手配など、なかなかの手間がかかりま
す。(専門家に作成サポートを依頼した場合には「手間」は省かれますが、その
分の報酬がかかります。)
保管制度を利用した自筆証書遺言の場合は、自身が作成した自筆証書遺言の他に
申請書と本人確認書類などを法務局に持ち込むだけで、証人の立ち合いは不要で
す。(専門家に作成サポートを依頼した場合には、その分の報酬がかかります。)
取扱い場所は?
公正証書遺言はどこの公証役場でも作成してもらえます(次項の「本人が出向け
けない場合」を除く。)が、一般的には自宅近くの公証役場にお願いすることが
多いと思います。
保管制度を利用する場合は、自筆証書遺言を保管してもらえる法務局(遺言書保
管所)に以下のような規定があり、その中から選択することになります。
・遺言者の住所地を管轄する法務局(遺言書保管所)
・遺言者の本籍地を管轄する法務局(遺言書保管所)
・遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局(遺言書保管所)
なお、日本全国すべての法務局で遺言書の保管業務を取り扱っているわけではな
く、法務大臣が指定する特定の法務局に限られます。
本人が出向けない場合は?
本人が病気などの事情で公証役場に出向くことができない場合には、本人がいる
ところまで公証人に出張してもらうことができます。(手数料以外に別途出張料
の支払いが必要になります。)
保管制度を利用する場合には必ず本人が法務局に出向く必要があり、法務局の担
当者に出張をお願いすることや、代理人が本人から必要書類を預かって申請を行
うことは制度上できません。
したがって、本人の外出が困難な状況においては、この制度を利用することは困
難と思われます。
本人の意思確認や後日の紛争防止については?
公正証書遺言は、作成時に公証人が本人に遺言の趣旨を口述させてその意思を確
認します。また、事前打合せのうえで公証人が作成することにより、遺言書の要
式や内容についての法的瑕疵の有無の担保がある程度得られること、証人の立会
いが必要(=後日の証言が得られやすい。)なことなど、本人の意思確認や後日
の紛争の防止に役立つものがあります。
※公正証書遺言における本人の遺言能力について争われた裁判例もあるので、必
ずしも完璧であるとは言い切れませんが、一般論として自筆証書遺言よりはよ
いと言えます。
保管制度を利用した自筆証書遺言では、遺言を単に保管するための制度でしかな
く、遺言書の内容の正確性や遺言者の遺言能力を担保するものではありません。
したがって、これらの点について後日紛争が生じる可能性もゼロではありません。
ちなみに法務局(遺言書保管所)では、遺言書を預かる際に以下の点の確認をし
ます。
・遺言書が民法968条の定める方式に適合しているかどうか
・遺言書を本人が自書したものかどうか
・申請者が遺言者本人であるかどうか
相続開始の通知は?
自筆証書遺言の保管制度では、相続人等のなかで誰か一人でも遺言書情報証明書
の交付や遺言書の閲覧があった場合には、その他すべての相続人等に対して法務
局から遺言書が保管されている旨の通知がなされます。
また、保管申請時に「死亡時の通知の申出」をすることにより、遺言者が死亡し
たときにあらかじめ指定しておいた人(相続人・受遺者・遺言執行者などのうち
の1名のみ)に対して、遺言書が保管されている旨の通知がなされます。
公正証書遺言については、今のところこのような通知制度はありません。
遺言書を作成する代表的な目的のひとつとして、「相続開始後の紛争の予防」が
あげられます。
法務局での自筆証書遺言の保管制度は、時間や費用を節約したい人にとっては非
常に利用しやすい制度ですが、遺言書に関する十分な知識を持たないまま自筆証
書遺言を作成してこの制度を利用した場合には、一体どうなるでしょうか?
幸にも紛争性を帯びない相続であれば問題はないのかもしれませんが、万一、そ
うでなかった場合には、遺言書の内容をめぐって遺された遺族が正に「争族」を
繰り広げることになります。
これから遺言書の作成を検討しており、なおかつ自筆証書遺言の保管制度の利用
を考えている方には、次の方法をおすすめします。
@自筆証書遺言の内容について専門家のアドバイス(サポート)を受ける
Aそのうえで自筆証書遺言書保管制度を利用する
このことで、法的にも問題のない遺言書を作ることができ、また、法務局(遺言
書保管所)で保管されることで、公正証書遺言により近い形で希望を実現するこ
とができます。
当事務所では、ご本人の希望により、「公正証書遺言の作成」・「自筆証書遺言
の作成と保管制度の利用」のどちらにも対応できるサービスを用意しております。
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