家族信託の決まりごと
受託者になることができる人
受託者は、委託者から財産の管理を委託されて引き受けた人のことです。受
託者になるためには特別な資格等は必要なく、基本的には誰でもなることが
できますが、未成年者や成年被後見人、被保佐人などはなれません。
また、信託された財産を委託者の希望に沿って適切に管理・運用・処分して
もらう必要があるので、人選には慎重な判断が求められます。
受託者の権限
受託者の権限の範囲は、「信託財産に属する財産の管理または処分およびそ
の他の信託の目的の達成にために必要な行為」と信託法に定められています
が、契約内容によってその権限を制限することも可能です。
たとえば、「自宅の管理・修繕は委託するけれども売却は認めない」などと
いった具合です。
受託者の義務
信託法で定められている受託者の主な義務は次のとおりです。
@善管注意義務
「善管」とは善良な管理者という意味です。注意義務を怠ると過失がある
とみなされて、損害賠償などの対象になることがあります。
A忠実義務
受託者は法令や信託目的にしたがって、受益者のために忠実に信託業務を
処理する義務があります。
B公平義務
受益者が2人以上いる場合には、受託者は受益者に対して公平にその職務
を行う義務があります。
C分割管理義務
受託者は、信託財産を自分の財産と分別して管理する必要があります。
D自己執行義務
受託者は、委託者から信頼されて財産の管理等を託されているので、原則
として自分で信託事務を行う必要があります。
E帳簿等の作成・報告および保全の義務
受託者は、信託事務に関する計算や信託財産の状況を明らかにするため
に、帳簿その他の書類または電磁的記録を作成する必要があります。
毎年1回、一定の時期に貸借対照表・損益計算書その他の書類を作成して
受益者に報告をします。
なお、作成した書類等については、10年を過ぎるまで(信託の終了によ
る清算があればその日まで)保存する必要があります。また、受益者に請
求をされた場合には、それらを閲覧させる必要もあります。
F受託者の損失填補責任
受託者が任務を怠ったことによって信託財産に損失等が生じた場合には、
受益者は受託者に対して損失の填補または原状の回復を請求することがで
き、受託者はその責任を負います。
受益者とのその権利(受益権)
受益者は、信託財産から得られる利益を受ける権利、つまり受益権を持つ人
のことをいい、委託者による信託契約で指定されます。
受益者は次のように比較的自由に定めることができます。
・自分自身
・胎児や将来生まれる現在未存在の子どもなど
・法人、団体、組合など
・複数の人
⇒複数の人を受益者にする場合、同時に受益権を指定することも、Aの
死亡後はBなどのように連続的に指定することもできます。
不動産は登記手続きをする
家族信託で不動産を信託財産とした場合には、その旨を登記する必要があり
ます。具体的には、登記時に所有権移転の登記原因として信託を明示し、あ
わせて「信託目録」を作成し、この目録の中で委託者と受託者を明記しま
す。また、信託契約書の中から登記に必要な事項および任意に登記したい事
項を「信託条項」として記載します。信託条項の記載例は次のとおりです。
・信託の目的
なぜ信託が設定されたのかその目的を記載する
・信託財産の管理方法
受託者の管理処分に関する権限について記載する
・信託の終了事由
信託をいつまで継続するのか、どういった事由により終了するのかを
記載する
・その他の信託の条項
信託終了時の信託財産の承継先などを記載する
預貯金は信託口口座を開設する
基本的に預貯金を信託財産とする場合には、受託者の肩書付の信託口口座を
開設することが理想的です。信託口口座は「信託した預貯金を管理する座」
のことで、受託者個人の預貯金とは別の信託財産専用の管理用口座となりま
す。
なお、信託口口座はすべての金融機関で取り扱っているわけではないので、
信託口口座を利用できない場合には、受託者があらかじめ受託者の個人名義
で新規口座を開設して信託財産専用の口座として代用することもできます。
この場合には、少なくとも信託契約書の中で信託専用口座の口座番号を記載
する等して信託財産の管理用口座であることを特定しておく必要がありま
す。